ファラデー母の涙 2017.12.15 浄土真宗本願寺派最誓寺住職 堀田了正

アインシュタインとともに、現代科学に大きな足跡を残している、ファラデーという科学者がいます。ファラデーには、大変示唆に富んだ話が伝えられていますので、ご紹介いたしましょう。

 

ファラデーの母親の涙

★イギリスの化学・物理学者マイケル・ファラデー

現在、世の中には電気を使った技術が数多くありますが、それらは彼の功績から生まれたもので、あのアインシュタインが、壁にファラデー、ニュートン、マクスウェルの絵を貼っていたと伝えられています。


クリミア戦争 (1853–1856) の際に政府から化学兵器を作ってもらえないかという要望がきたとき、倫理的な理由からこれを断わりました。彼は机をたたいてこう言ったという。「作ることは容易だ。しかし絶対に手を貸さない!」ファラデーが強い平和主義者だったことも伺えます。


ファラデーは信心深い人物で、1730年に創設されたキリスト教徒の一派であるサンデマン派(グラス派)に属していた。伝記作者は「神と自然の強い一体感がファラデーの生涯と仕事に影響している」と記しています。

 

ファラデーの「母親の涙」

ただ、彼の素晴らしさは、研究であげられた功績だけではありません。彼が、医学生たちの前で講義をしていたときのこと。 彼は学生たちに、少量の液体が入った試験管を見せ、この液体の正体を問いました。

もちろん、学生たちには何のことかわかりません。困惑した様子の学生たちを見て、彼はゆっくりと語りだしました。「ある学生の母親が、昨日私のところへ来てね、息子についての相談をされたんだ。母親は息子を思い、涙を流しておられた。この液体は、その涙の1粒だよ」
さらに、ファラデーはこう続けます。
「医学生として、様々なデータを医学的かつ合理的に見ることは大切だ。しかし、医療とはデータがすべてではない。この水の成分には、科学や医学では測り得ない、母の愛が含まれている。君たちも、温かい気持ちで患者を見られるようになってほしい。自分が医者である前に、人間であることを忘れてはいけないよ」

 

昔から日本には、「医は仁術」という言葉がありますが、ファラデーの言葉を医師のみならず、今一度かみしめたいものです。